1032 初めての当直   

 水道事務所に配置換えとなって二か月を経過した。一日も早く新しい職場の業務を熟知しなければならないが、午前中は本庁で旧業務の引継ぎ、午後は水道事務所で水道業務の習得と落ち着かない日々であった。中でも新業務に慣れたら当直業務に当たらなければならないことが頭から離れなかった。大半の者にとっては何でもないことであろうが、メカ音痴で機器の操作の苦手な自分にとっては頭が痛いことであった。

 

 当時の廿日市町は今と比較すると規模が小さく、人口2万3千人足らず、世帯56百世帯程度であった。その内、上水道を給水されていたのは3千2百世帯、給水人口は1万3千人であった。冗談であろうが先輩職員から当直中に機器の操作を誤れば、多くの町民に取り返しのつかない迷惑を掛けることになるなどとからかわれることもあった。この2か月の間午後のみであったが、水道の仕組み・施設の説明・機器の操作等を少しずつ教えてもらい、ある程度理解出来るようになると危惧していたほど悩むことも無かったが、当直の日が近づくにつれ緊張は高まるばかりであった。64日金曜日、とうとう一人で当直に当たる日となった。こちらの心配をよそに慣れない者にでも業務が遂行できるよう小さな段取りにまで気が配られ、不測の事態があれば連絡次第ベテラン職員がすぐ駆け付けられるよな手配もされた。当日は通常の勤務が終了後も親しい先輩が遅くまで居残ってくれた。夜9時くらいまで付き合ってくれたが、よほどの不測の事態が起こらない限り朝まで機器の操作が不必要であるところまで段取りを行ってもらった。とは言え緊張で朝までほとんど寝付かれない状況であった。

 

 当時の水道事務所は一階のほとんどが送水ポンプと、たくさんの表示板が並んだ操作室で占められていた。その一角に職員の待機スペースがあり、布団が敷かれるスペース・簡単な調理ができる設備など六畳程度の広さであったが、ポンプ室との仕切りはガラス戸一枚で、切れることなく送水ポンプの轟音が鳴り響いていた。先輩職員が帰った後、広い敷地の浄水場の中にたった一人で孤独感に苛まれるかと想像していたが、外周を見回ったり道路と川を隔てた簡易水道施設を点検に行き、各機器の操作盤を確認等していると時間の経過に気が付かないほどであった。ほとんど眠れない中で朝を迎えたが、早朝に近くに自宅のある橋本所長が「どうしているか心配で落ち着かなかった」と来られ、各機器の状況を点検され「異常なし」と帰って行かれた。ほどなくして当庁の早い職員が来られ初めての当直から解放された。

 

 今回は初めての当直と言うことで大半の段取りが行われ、夜遅くまでと早朝に様子を伺ってもらった。広い浄水場の見回りや、各機器の運転状況の確認等のみで済んだ。通常の当直業務ではこの程度で済むはずもなく、配水池の貯水量に応じて送水ポンプの始動・停止。滅菌用塩素ガスの補充。河床下受水管目詰まり解消。電話応対。その他の臨時的対応等多くの業務に追われることもある。

 

 当時宿直では通常の勤務後引き続き当直業務に当たっていた。自宅が近い職員は自宅で夕食後再度事務所に来て当直業務にあたる。自宅が遠い場合はご飯を炊いて近くの商店で簡単なおかずを買ってきた。今のようにコンビニや弁当を売る店も無かった。翌日は当直終了後に大急ぎで自宅に帰り朝食後すぐに通常の勤務に当たっていた。土曜の半直。休日の日直。夜間の当直を職員全員で交代で行っていた業務も、その後、専任の職員が配置されこれらの業務から解放された時はとても嬉しかったものである。


by hirosan_kimura | 2025-04-11 09:18 | Comments(0)

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