毎年3月中旬を過ぎると一部の職員は落ち着きが無くなる。それは職場の移動の内示が発表されるためである。こうした中でも至って落ち着いて職務を遂行していた。役場に就職してまだ二年目、移動はまだなく他人事と捉えていたからである。
こうした中、4月から水道事務所に勤務替えとの内示があった。予期せぬことであったが間違いでは無いかと思ったくらいであった。その理由は3点あった。
余りにも短期のでの配置換えであったこと。
現在でも1・2年で配置換えは無いことは無いが、当時は同一場所での勤務が比較的長くい1・2年の経験で配置換えは極めて異例であった。中にはその道のプロと言われるくらい、長期にわたって同一事務に当たっている職員も珍しくなかった。自分に何か落ち度があったのではと思ったくらいであった。上司に問いただしてもそのようなことは無いと説明してもらったが、腑に落ちない思いであった。
二人しかいない係員が同時に移動したこと。
担当者が二人しかない場合はその内一人を配置換えし、同一年に二人とも配置換えななることは考えられない。極めて単純な事務ばかりならいざ知らず、経験のない者同士で事務に支障は出ないのかと不思議であった。実際に後任者から異議出てて、こちらまで大迷惑を被る結果となってしまった。
配置換え場所が庁舎外であり、予想もしない職種であったこと。
雇用されている限り、辞令一枚で配置換えに従うのは当然である。とは言え、当時は庁舎外は出先と称され、出先に配置換えになると「あの人は飛ばされた。」と皮肉交じりに揶揄される風潮があった。あの人は仕事が出来ないから飛ばされたのだろう。上司に逆らってばかりいるので飛ばされたのだろう、勝手なことを言っていた。
自分としては「飛ばされた」と言うような感覚は無く、むしろ本庁外の方が開放的で気楽だろうとの気持ちが強かった。
しかし「水道」と言う専門的な業務は特殊で、いくら事務職とはいえ職務をこなせるのかと思う気持ちの方が強かった。結果的には後ではこれは杞憂に終わった。
新年度の配置転換では、4月1日に新しい職場に通勤するのが通常である。結果的には水道事務所に常時出勤し始めたのは6月1日からであった。
前述したように旧国民年金担当の二人が移動したが、後任の二人共新人では業務が遂行出来ないと異議が出たらしい。いくら経験のない事務とは言え、特殊な能力を要する業務でもなく、経験が無いから出来ませんと言うのが良く通ったものである。
後任の二人の内一人は中年の男性で地御前地区の出身であった。もう一人は串戸地区在住の若い男性であった。中年の人の母親は自分の母親と同級生で懇意にしていた。移動内示があった時、母親に話すと「同級生の息子の○○ちゃんなら、分からないことがあったら何でも親切に教えてあげるよう」にと釘をさされた。
後任の人が人事の担当者にどのような申し入れをしたのか分からないが、当分の間、午前は役場に出勤し後任の年金係に年金の事務を指導するようにと言い渡された。こちらとしても黙って「はい そうですか。」と受けるわけには行かなかった。
「移動後 二・三日ならともかく午前は庁舎、午後は水道事務所に勤務はおかしい。こちらも新しい仕事を覚えなければならない。新年金係は分からない都度、電話で問い合わせても良いのでは。庁舎内に前年金担当の上司がおられるのでその方に聞けばよいのでは。当面の間とはいつまでか。」など食い下がったが、「言い分は良く分かる。困った時はお互い様であるから、何とか協力してっ欲しい。」とのことで了解した。
この件は後任の年金係と人事担当のみでなく、前任年金係「増井上司」、水道事務所の橋本所長の了解を得ているとのことであった。
結局、午前庁舎・午後水道事務所勤務は2ケ月続いた。6月1日より水道事務所に通常勤務となったが、相変わらず新年金担当より「あれが分からない。これが分からない。」と電話での問い合わせが しょっちゅう あった。時には、分からないことがあるのですぐ来て欲しいとの電話もあった。すぐ来て欲しいと言われても当時は庁用車もなく、庁舎まで自転車を走らせていた。再三続くと事務所の人からも「用がある方が來るのが当たり前で、こちらから行くのはおかしいのでは」と指摘されることもあった。そうは言っても帳簿や名簿を確認しながら説明することもあるので、その都度 自転車を走らせていた。
それにしても、水道事務所の業務を中断して庁舎に行くのを気持ちよく出していただき、水道事務所の上司や同僚に感謝するばかりであった。
後になって、年金担当の人に「二人共新人の中、途方に暮れることもあったが、その都度 丁寧に説明してもらい有難かった。その際は分からないことを解決するのが精いっぱいで、無理なお願いを当たり前のよう頼み申し訳なかった。」と言われた。
もう一人の若い職員は交通事故で無くなられたが、何かあれば電話をしてきていたのを思い出すばかりである。