当時は執務中でも顔なじみの住民が、無断で事務スペースに入って来られていた。別に用事があるわけでもなく、他の用件で役場に来られた時に「あなたの顔を最近見ていないから寄ってみた。」など言われていた。こちらも特に忙しくなければ椅子を勧めて話し込んでいた。時間の無駄なようであるが、このような人は地域の顔役のような人が多く、様々な情報を仕入れることが出来た。また懇意にしていると地域で困ったことがあれば相談に行けば、大抵解決することが出来た。 当初はこちらも新米なので些細なことで相談することが多かったが、後になって困難な案件を相談に行き解決していただき、感謝に耐えなかったことが多々あった。
この他、執務中に様々なセールスや行商に来られる方も多数あった。一番多かったのは生命保険を勧誘するおばさんたちで、何社かの保険会社の人達が成果があるのか分からないのか分からないが、言えれ変わり立ち代わり来ておられた。
最初は断り続けていても、何回も来られるうちに親しくなり、いつの間にか生命保険に加入する人が多数あった。
図書の販売に来られる人もあり、当時は百科事典を購入するのがステイタスのようであった。一式何十巻もあり高価で簡単に手に入れられなかったが、誰かが購入すると我も我もと購入していた。今のようにスマホで簡単に調べられる時代で無かったので、購入してしばらくはあれこれ調べて悦に入っていたが、その内 見向きもしなくなり本棚で埃がたまっていた。余りにも邪魔なので欲しいという人にタダで譲って喜ばれたが、その人も最初だけ喜んでいたがその内、持て余すようになったそうである。やっとの思いで買った百科事典は人に譲り、残ったのは長期分割で払う借金のみであった。後で聞くと、高価な百科事典を購入して良かったと言う人は皆無であった。
中には大きな「めご」を背負ったおばさんが、牡丹の苗を売りに定期的に来ておられた。この人は島根県の大根島と言うところから来ておられた。美しく咲いた牡丹の写真を見せて、誰でも簡単に咲きますとの説明で多くの職員が購入しいた。咲くのは咲くが写真のようにダイリンに咲かすのは難しかった。それでも毎年定期的に来ておられたが、いつの間にか来られなくなった。
その他、新聞・レコード・スーツ仕立て・いかがわしそうな薬など様々なものを売りに来る人があった。
当時は、一般の人でも事務室の奥まで出入り自由であった。中には強引に売りつける人もあり職員から苦情が出て、総務課に届け出て許可を得なければ物品販売は出来ない。休憩時間中は良いが執務中の販売は不可。それでも勝手に入り込む人があり、許可なく事務スペースに入室厳禁となった。その内、事務スペースには個人情報や守秘義務書類等もあり、一般住民も許可なく立ち入り禁止となった。現在はどうであろうか。
物品の販売はともかく、一般住民が来られ様々な情報を得ることが出来た頃が懐かしい。