素人が調べたもので誤りも多々在ろうかと思いますが、気のついた点はご指摘を頂き、古い資料や写真等があればご一報いただければ幸いです。


by hirosan_kimura

カテゴリ:仕事( 1 )

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 今から四十数年前のことである。職場に「田尻の海岸に水死体が漂流している。」と住民の方より電話が入った。

 直ちに上司の人と現場に駆けつけて見ると、岸から数メートルの所に、背中を上に女性の水死体が波に漂っていた。

 顔は見えないが、髪の毛が波でユラリユラリしており、誠に気味の悪いものであった。

 場所は廿日市町と大野町の町境附近。身元不明死体はその町で処理しなければならないので、わが町に有るのと、隣町に有るのとでは大違いである。

 誰かが「しばらく待っていると、潮の流れで大野町側に行くかも知れない。」と言うので、待っていたが一向に動く気配が無い。

 その内「誰も見ていないので、棒で大野側に突っついてこっそり動かそうか」と良からぬことを言っていが、死体を粗末に扱かうのも後味が悪いということで、警察に通報し死体を引き上げ廿日市町で処理した。

 当時は、誰一人知る人のいない異郷の地で、事故や自殺で無くなる身元不明の方が年間数件あった。

 その都度、その町村ではその始末を行っていたが、今と違い職員の数も少なく担当はあるが、係りの者総動員で任務に当っていた。特に若い職員はすぐ駆出されていた。

 年配の職員は経験もあるが、若い職員に経験さそうと思うのか、面白がってかは分からないが、直接死体に接する仕事を良く命じられていた。

 首吊りの死体を降ろすのに、首の上の綱を切ってドサット死体を落とすのは失礼である。垂れ下がった死体を抱きかかえて降ろさなければならない、などと若い職員に死体を抱かすのである。

 冷たい死体を抱きかかえるだけでも気味が悪いのに、綱を切った途端に自分も倒れ、倒れた上に死体が覆い被さり、泣きたくなるほどであった。

 ある時は、汽車に飛び込んだ人があり千切れた死体が散乱していた。上司の言いつけにより恐る恐る火挟みで集めるが、線路の小石に小さな肉片がこびりつき中々取れない。

 それを見て上司が「素手で取れ」と言うがとてもそんなことは出来る筈がない。軍手を二枚重ねて肉片を集めたこともあったが、後で手を何回洗っても気持ち悪く、ご飯を食べるのに気分が悪くなりそうなこともあった。

 死体の検視は現場で行われることもあったが、警察署まで運んで行われることが多かった。今は無い警察署の裏の柔道場で行われていた。

 検視は近くのY医師が当っておられた。見るだけで気分が悪くなりそうな死体を、ひっくり返したりあちこち調べられるので、「先生、死体に触って何ともないのですか」と訪ねる。

 先生は「木村君、死体は少しも恐ろしくないんよ。生きている人の方がよっぽど恐ろしいんよ」と言われたのが、今でも印象に残っている。

 死体は大抵の場合眼をつぶっているので、警察署の方が写真を撮られる時、ガラスのような物で作られた義眼を目にはめておられた。それを入れると目がぱっちり開いたようになるが、顔を見ると開いた目で見つめられているようで、ゾットしたのも思い出される。

 検視が済むと遺体は役場に引き渡される。何故か地御前の農協に組立て式の棺桶が売られており、棺桶をそこで買っていた。遺体を棺桶に納めるのに何人かで抱きかかえて入れるのも、気持ち良いものではなかった。

 遺体は役場に持ち帰るが、遺体安置所も無く、玄関側の人目に付かない所に一晩安置して置く。その場所は宿直室の入口であった。

 当時の宿直は、男性職員二人が交替であったが、若い職員は夜中にトイレに行くのに棺桶の横を通らなければならないので、遺体が安置されている日に当番に当るのを怖がっていた。

 翌日は、身元不明者を埋葬する場所に職員が棺桶を運び、穴を掘って埋葬していた。その場所は遺体を埋葬した地点の土が至る所で陥没しており、誠に気味が悪い場所であった。

 ある時、遺体の身元が判明し数日して掘り起こしたことがある。腐乱しかけた遺体に取りすがって嘆かれる遺族を見たことがあるが、見るに耐えない場面であった。

 昭和43年に「町営火葬場 霊峯苑」が完成し、身元不明者を職員で埋葬する必要が無くなった時は、いやな仕事から解放され感激したものである。

 火葬場には遺体安置所もあり、棺桶を役場で一晩保管する必要もなく宿直をする職員も喜んでいた。

 それでも身元不明者が出て、警察署の検視が済み遺体は役場に引き渡されていた。農協に棺桶を買いに行き、火葬場まで遺体を運んでいた。

 遺体を運ぶ車は普段業務に使っていた庁用車であった。当時の車は後ろの席が折りたためず床が平にならないため、棺桶は後席の背もたれに斜めに乗せていた。

 当時、火葬場に行く道は悪くおまけに棺桶が斜めなので、棺桶がガタガタしないようしっかり押さえつける役をやらされることが多かったが、遺体の入った棺桶をしっかり押さえる役も嬉しいことではなかった。

 当面、そのような仕事を年に何回か行っていたが、ある時町内に葬儀屋さんが開業された。身元不明者が出て警察署の検視が済むと、後は全て葬儀屋さんに頼めば良くなったので、この時の嬉しさは今でも忘れることが出来ない。

 公務員は通常の業務以外の特別の職務を行った場合、特殊勤務手当が支給される。中には何でこんな業務に特別手当が支給されるのかと不審に思われるものもある。

 当時、死体の処理に当った場合、一回につき100円か200円くらい支給されていたと思うが、いくら手当を貰ってもこのような業務には当りたくないものである。

 とかく批判の多い公務員であるが、住民の目に付かない所で誰もがしたくない職務が行われている。かつてこのような業務が行われていたことを、今では知っている職員も僅かである。 
by hirosan_kimura | 2009-10-16 00:34 | 仕事 | Comments(2)